2024年12月31日、紅白初出演。そして会場でのサプライズLIVE。
今までそれほど興味がなかった人の中にも、B'zというバンドの存在が気になっている人が少なくないのではないだろうか。今回の影響を受けて、ファンクラブメンバーが推定1万人増加したというネットニュースも目にした。私の妻も「今まで全然興味なかったんだけど、あの紅白を見て以来、youtubeを見漁ってる…特に稲葉さんが気になる…!」と盛り上がっていた。
そう、私自身もB'zが大好きなのはもちろんなのだが、稲葉浩志さんのソロ名義の楽曲たちが、個人的には好みだったりする。
なぜか。
それは、B'zではほとんど見せることのない、見せるとしてもハードなサウンドや勢いの影に隠れて表立って顕れてこない等身大の葛藤や焦燥感、B'zという鎧の内側にいる、一人の人間としての稲葉浩志の魅力を感じられるから。
そんな稲葉浩志ソロの中から、これぞ「稲ソロだ」という曲を、絞りに絞って3つだけ選んでみました。
(あくまで「B'zの稲葉浩志からは想像できない、別人のような」という基準で選び、さらにきわめて個人的な好みが入っています。B'zならではのハードでポジティブ、メジャーな雰囲気のものが好きな方にはちょっと合わないかもしれません…ご容赦ください)
冷血 (アルバム「マグマ」より)
稲葉ソロ名義としての初アルバム、その1曲目を飾る「冷血」。初めて聴いた時は度肝を抜かれた。
個人を尊重 そして他人は開放
付き合いの悪さにゃ太鼓判押せる
誰にも怒らずに 誰からも好印象
一番大事なところは上手に逃げる
稲葉浩志 アルバム「マグマ」M01「冷血」より抜粋
B'zの稲葉さんからは想像できないような冷たく、自虐的で、ドライな言葉選び。でも、こういう極端な個人主義「自分は自分。他人は他人。そのほうが平和でしょう」という、血の通ってない、冷徹な部分って、誰もが多かれ少なかれ心の底に持ってるようにも思う。稲葉さんの中にもそんな「冷血な自分」がいて、それを非常に客観的に表現した素晴らしい1曲。「自分を曝け出す」みたいなショッキングな豪快さではなく、あくまで冷静に、淡々と自分を見つめる。この知的さと教養の深さがまさに稲葉さん…!という気持ちになる。
透明人間(アルバム「Peace Of Mind」より)
歌詞の「ズボンのポケットのナイフは少しひんやり」というフレーズなどから、少年犯罪をテーマにした曲だと言われることが多いのだけど、あらためて聴いてみると、犯罪に至る、至らないに関係なく少年(おそらく思春期の13〜15歳)が抱える、自分は確かに生きているはずなのにその実感がどこにも無い、本当に存在している気がしない、まるで自分が透明人間になってしまっているような虚しさを歌っているように感じる。
「誰か僕の名前を呼んで」「伝言はありませんか」と他者をひどく渇望しながらも「世界よ僕の思い通りになれ」という傲慢な全能感を歌い上げる大サビは鳥肌もの。稲葉さん自身の少年期は親に迷惑かけることなく、文武ともにそつなくこなし、大人しく問題ない子どもだったらしいけれど、こんな歌詞が書けるのは秀逸な想像力だけでなく、もしかしたら少年だった稲葉さんの中にも、透明人間のような感情が渦巻いた時期があったのかもしれない…と色々考えさせられる。
遠くまで
1997年にリリースされた3曲入りのマキシシングル(死語か?)の表題曲。ボーカルとストリングスのみで進行する1番は途轍もない表現力と歌唱力を味わえる。
音作りも、この頃はあえてB'zとは違うこと、離れたことをやろうとしているようにも感じる(インタビューでは『B'zで出さずに溜まってきたアイデアをソロで作品に生かす』と話されていた)ドラムも疾走感のあるビートというよりちょっとドタドタ、ギターも弾き語りのようなカッティングが用いられ、全体的にアナログな手作り感があるサウンドだと思う。
97年というとB'zとしてももうすぐ10周年の頃。金と銀のベストを出す前ですね。大成功をおさめたバンドではあるけれど、未来への稲葉さん自身の迷いや不安や葛藤が歌詞(特にcメロの『車についた小さな擦り傷を〜』のくだりなど)に顕れているように思う。
たった3曲で語り尽くせるわけはないが・・・
稲葉ソロの素敵でカッコいい曲は他にもいくつもあるのだけど(okay、soul station、wonder land、羽…などなど )稲葉さんの内面深くを知れるという点で、あえてこの3曲を選びました。稲葉ソロはB'zのようにキャッチーな曲は少ないけれど、聴けば聴くほど好きになるスルメソングばかりなので、気になった方はぜひ一度手に取ってほしいと思います。
(私が初めて行ったLIVEはB'zではなく稲葉ソロでした。そういえば、そのLIVEの1曲目も「冷血」だったのだ)